2008年11月29日土曜日

「こわす」「わる」「やぶる」「おる」(Broken mirrors)

三年に一度、横浜で行われるYokohama triennaleという現代美術のイベントがあります。先日行って、これはそこで撮った写真です。 イタリア人作家、Michelangelo Pistolettoの『17マイナス1』という作品です。16 broken mirrors と1 unbroken mirrorに囲まれた空間。 

 "Broken mirror"は日本語では何と言いますか?こわれた鏡?ちがいますね。正解は「われた鏡」。英語のbreak/ brokenを日本語に訳すのは、ちょっと難しい。日本語では物によって、break/ brokenにあたる動詞が変わります。理由は動詞の漢字に意味があるからでしょう。 

 みなさんが一番よく知っている動詞は「こわす/こわれる」ではないでしょうか?漢字で書くと、「壊す/壊れる」。漢字の左側は「土」(つち)で、右側は「くずれる」の意味があります。「地震で土がくずれて、家が壊れる」など、建物に使うことができます。また、関連は見えませんが、動く物、例えば、電化製品や機械に対しても、使います。
「パソコンが壊れちゃった。」ちなみに、"It doesn't work."は日本語で「動かない」です。「働かない」じゃないですよ。 

 次は「わる/われる」。漢字は「割る/割れる」。左側の「害」(がい)は「きずつける」の意味があり、右側は「刀」(かたな)を表しています。そこで、「割」は「刀で切りさく」という意味になります。皆さんが知っているさむらいの言葉「ハラキリ」(腹切)は、「腹」(かっぷく)という場合もあります。まさに、刀で腹を切ることですね。しかし、現代の私たちが「割る」ものは、ガラス製や陶製の硬い物、例えば、窓やカップ、お皿など。プラスチック製の物は「割れない」物ですね。 

 そして、「やぶる/やぶれる」は何に対して使うでしょう?漢字は「破る/破れる」。左側は「石」(いし)で、右側は「皮」(かわ)です。つまり、昔「石で動物の皮をはいだ」ことが由来です。ですから、皮のような薄くて、やわらかい物、例えば、紙、服、布に使います。他の例では、「規則や契約を破る。」これは規則や契約が紙の上に書かれていることから、このように言うのでしょうかね? 「最近の不景気から多くの会社が産しています。」この文中の「産」(はさん)は"bankrupt"です。 

 では、最後に「おる/おれる」。漢字は「折る/折れる」。左側の「才」は手を表して、右側は「斧」(おの)を表していますから、漢字の意味は「手で斧を持って、木を切る」ということです。さらに、「折」は切るだけではなく、「曲げて切る」の意味があります。木や長い物の両端を持って、それを曲げてみて、いくつかに分けるという行為です。「」←こんな感じです。人間の骨にも、使えます。
「転んで、足の骨を折ってしまった。」骨は木のように長くて細い物ですし、折れるイメージは「」ですね。 また、「紙を曲げて、色々作る」日本の遊びは「紙」ですね。折り紙では紙を切ることはしませんが。 

 このように見ると、日本語の動詞は英語より数が多いと思うかもしれませんが、料理に関する動詞を見ると、日本語の方が少ないんですよ。日本人は日本料理を誇りにしているのに、何だか変ですね。例えば、英語の"bake", "grill", "roast", "toast"などは全部、日本語では「焼く」ですからね。簡単です。だから、日本語では様々な副詞を使って、焼き方の差を表しています。これについては、また今度書くことにします。

2008年11月18日火曜日

日本語を分析しよう

ワインと日本酒好きのイタリア人のAさんと、アメリカ人のMさん、この二人のおかげで、日本語のレッスンを通して、ワインと日本酒の知識を私もたくさん学びました。今ではワイン/日本酒テイスティングは私の趣味の一つになりましたが、二人の敏感な味覚には感心するばかりで、私にはソムリエのような才能はありません。 ワインの味わいのチェックポイントは4つあります。①甘味、②酸味、③渋み(タンニン)、④アルコール度。この4つに注目して、味のバランスを評価すると言われています。 

 では、これが日本語になると、どうなるでしょうか?日本語の謎を解くための私なりのチェックポイントを紹介したいと思います。「あげる」と「くれる」の違いは何?それはどういう場合に使うの?こういう質問があれば、以下のチェックポイントから、その文を分析してみてください。
  1. 主語は物か、人か
  2. 文は行動を表しているか、状態を表しているか (他動詞か、自動詞か)
  3. 主語は一人称(私)/二人称(あなた)か、三人称(彼、彼女、彼たちなど)か
  4. 主観的な文か、客観的な文か
  5. 既知(すでに知っていること)か、未知(まだ知らないこと)

1. 主語は物か、人か。

これによって、動詞が変わることがありますね。みなさんが知っているとおり、「物はある」「人はいる」はこの違いですね。

A) 私の家は 東京に ある

B) 私は 東京に いる

2.動詞は行動を表しているか、状態を表しているか。

日本語では言いたいことの視点が「行動」にあるか、「行動の結果、つまり行動の後の状態」にあるかで、表現が変わることがよくあります。結局、どちらの文も同じことについて言っているので、どちらも正しいのですが、視点が違うと、文から受ける印象が変わります。

例えば、週末に家にお客さんが来るので、その前にワインを買った場合。

A) 今日 ワインを 買った

B) ワインは もう 買ってある

Aは単純ですね。「私はワインを買った」という私の行動を表わしているだけです。Bは「私はワインを買って、それは今、家にある」という買った後の状態に視点が置かれています。話し手は「買った」という行動よりも、「今ある」という結果や状態の方を強調したいのだと思います。 

 これと関連して、動詞が他動詞か、自動詞か、というポイントもあります。「する」と「なる」が一番わかりやすい例ですから、「~ことにする」(decide to X)と「~ことになる」(X is decided)で考えてみましょう。
 A) 私は 来月 引っ越すことに しました。 
B) 私は 来月 引っ越すことに なりました

 AもBも「来月 引っ越す」ことを言いたいのですが、ニュアンスは違います。他動詞の「します」(A)は、話し手の行動を表していますから、「私が決めました」という話し手の意思が感じられます。

一方、自動詞の「なります」は行動の後の変化や状態を表しますから、Bは決心の後の結果に視点が置かれています。それで、決心を発表しているAの感じとは違って、結果を報告している感じが強いのです。


  3. 主語は一人称/二人称か、三人称か。
例えば、「~たい」と「~たがる」は両方、"want to"の意味がありますが、その違いは主語がだれか? 
A) 明日 私は 買い物を したい。 
B) 明日 彼は 映画を 見たがっている。 

 主語が一人称の場合は「たい」(A)を 使います。二人称も「たい」を使うので、「あなたは 何を したい?」と質問ができます。でも、三人称の場合は「たがる」(B)を使います。

4. 主観的な文か、客観的な文か。

つまり、主観的とは「話し手の考え方や意思が表わされている文」で、客観的とは「話し手だけではなくて、他の人たちも含めて、共通の考え方や意思が表わされている文」です。例えば、「~たばかり」と「~たところ」は "have just done"の意味がありますが、使い方は全く同じという訳ではありません。

A) 私は 先月 日本に 来たばかりです。
B) 私は 今 家に 帰ったところです。 

 Bは「今」がキーワードです。「今(例えば、3分前に)、家に帰った」というのはだれにとっても、終わったばかりの行動です。でも、Aの「先月」は 「少し前ですね」と考える人もいれば、「一か月も前ですか、ずいぶん前ですね」と考える人もいるでしょう。
つまり、Aの「~たばかり」には過ぎた時間に対しての話し手の感じ方が表わされています。 ですから、「一年前に 日本に来たばかりです。」という文もありえますね。
 一方、「三時間前に 家に帰ったところです。」は「三時間前はずいぶん前だ」と思う人もいるので、おかしい文になってしまいます。

5. 既知か、未知か。

では、「そうですか」「そうですね」「そうですよ」を比べてみましょう。

A) 山田:次の週末の天気は 晴れですよ。 田中:そうです。 
B) 山田:次の週末の天気は 晴れですよ。 田中:そうです
C) 山田:次の週末の天気は 晴れですよね。 田中:そうです。 

 この三つの中で、田中さんが週末の天気を知らない場合の答えはどれでしょうか?答えは、質問の「か」を使っているA「そうですか」です。自分が知らない情報が与えられたので、田中さんは「そうですか?」と山田さんに聞いているのです。 Bは田中が知っている情報に対して、同意を表しています。 Cも田中が知っている情報に対して、山田から同意を求められて、同意を表しています。

以上、簡単な例をあげて、説明しましたが、なかなか複雑な表現もこれらの視点から考えると、「はっ!」と気がつくことがよくありますから、皆さんもやってみてください。


直訳できない "It's a beautiful day!"

 明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!! と言いながら、最近はブログの更新をなまけています。読んでくださる方、ありがとう。 2023年は世界に平和が訪れることを心から願います。歴史を振り返ると、人間は戦争を繰り返していますね。今までの人類の半分は戦争で死ん...