『美味しんぼ』では色々な食材や料理法が、徹底的なリサーチをもとに書いてあって、そこに登場人物たちのドラマが絡み合っています。今、私が読んでいる54巻は「日本酒の実力」という題名で、文字どおり、おいしい日本酒を紹介したり、日本酒業界の大きな問題を説明したりしています。日本酒好きのアメリカ人の生徒と一緒に読んでいます。
といっても、今日のテーマは日本酒のことでなくて、このマンガに出てきた敬語表現です。
マンガの中である有名な美食家(海原先生)とある銀行の頭取が話しています。二人とも社会的ステータスを持った人たちです。以下は美食家が銀行を訪問したシーンの会話です。
頭取: 海原先生、わざわざお越しいただくとは恐縮です。難しい単語がいっぱいあるのですが、調べて読んでくださいね。単語を調べると、二人の会話の内容がわかるでしょうか?尊敬語、謙譲語、丁寧語がふんだんに使われているので、どれがどれか分けてみましょう。
(美食家が頭取にお土産を渡す)
美食家: 以前 李朝の白磁の壺をいただいたお礼です。自作で僭越(せんえつ)ですが、茶碗です。普段使いにお使いください。
頭取: うはああ。先生の御作をちょうだいするとは光栄です!あの白磁の壺はまり子(娘)の結婚披露宴に「至高のメニュー」を出してくださったお礼に差し上げたものです。そのお返しをいただくとは恐れ多い。
①尊敬語もし、私とこの二人のどちらかが話せば、私だけが尊敬語や謙譲語を使って、話さなければなりませんが、この二人のように同じくらいのレベルにある人たちが話す場合には、それぞれが相手を尊敬したり、自分を謙遜(けんそん)したりしながら、複雑に会話を進めます。
②謙譲語
- お越し: 訪問
- 御作(ぎょさく): 相手が作った物をうやまう
- くださる: くれる
③丁寧語
- いただく: もらう
- 恐縮です: 相手に迷惑をかけたり、相手から何かをしてもらった時に 申しわけないと思う
- せんえつ: 自分の立場を超えて、出すぎたことをしたとへりくだる
- ちょうだいする: もらう
- 差し上げる: あげる
- 恐れ多い: 「恐縮」と同じ
- お礼
- お使いください
- お返し
そして、敬語表現を読み解くポイントは「だれがだれに言っているか」、また「だれがその行為の主語か」を見つけることです。尊敬語を使うと、その動詞は相手の行為、謙譲語を使うと、その動詞は自分の行為だということを忘れないでください。これは暗黙の了解なので、「私は」「あなたは」などの単語が無くても、だれの行為かわかるようになっています。
では、先ほどの会話を普通語にして、主語と説明を入れて、見てみましょう。
頭取: 海原先生、わざわざ来てもらって、すみません。状況がわかりましたか? 同じレベルの二人が話すなら敬語なしでもいいのに・・・と思っても、敬語には社会的マナーや大人の常識という意味合いも強いので、使わないわけにはいかないんですね。
(美食家が頭取にお土産を渡します)
美食家: 以前 私があなたから李朝の白磁の壺をもらったお礼です。自分で作った茶碗です。大した物ではありませんが、普段使いに使ってください。
頭取: うはああ。先生が作った物を、私がもらうとは光栄です!あの白磁の壺は、あなたが まり子(娘)の結婚披露宴に「至高のメニュー」を作ってくれたお礼に、私があなたにあげたものです。私があなたからそのお返しをもらうとはすみません。