日本語能力試験が終わって、クリスマス休みが近づいて、みなさんの日本語の勉強も休憩モードになっているかもしれませんね。テストの勉強をしていた方、お疲れさまでした。勉強しながら、日本語のおもしろさや、母国語との違いなど色々な発見があったと思います。
外国語の間には翻訳しにくい、または直訳できない表現がたくさんありますね。でも、同じ人間なのですから、言いたいことは基本的に同じです。そんな表現は訳せないのではなくて、言語や文化の違いから異なる言い方で表されているのですよね。
例えば、今日の投稿のタイトルは "Merci d'être qui vous êtes." というフランス語で、これは英語に直訳することができます。 "Thank you for being who you are." フランス語と英語は言語的に近いので、直訳できるのですね。でも、日本語には直訳することはできません。この "who" は「だれ」にはなりません。
できるだけ原文に近いままで訳すと、次のようになります。相手の存在と相手の持つクオリティに感謝している気持がよく表れています
あなたがあなたでいてくれて、ありがとう。
もっと自然に簡単に訳すと、次のようになります。
あなたがいてくれて、うれしい。/よかった。
この文は相手のクオリティというより、相手の存在に感謝を表していますが、「あなたが (私と)一緒にいてくれて、うれしい。」 と言えば、"I am happy that you are with me." になって、「一緒にいること」への感謝に変わります。
あるフランス人は "Merci d'être qui vous êtes." が日本語に直訳できないことに気が付いたのでしょう。それで、この文を「(あなたが)生きていて、ありがとう」と意訳しました。これはとてもいいステップだと私は思います。
母国語で考えていることを日本語で言えそうなことにうまく変えてみるというのは大切です。直訳するくせが付いている人は、辞書がないと話せない人になってしまうおそれがあります。母国語で頭に浮かんだ単語や表現が日本語でわからない時に、それに似ている単語や表現を探したり、自分の考えをシンプルにしてみるという作業をしてみてください。
ところが、「生きていて、ありがとう」という表現は実際に日本人が聞いたら、意味がわかるような、わからないようなあいまいな表現です。「生きていて、よかった。」の方が実際に使う表現だと思いますが、もう少し詳しく見てみましょう。
生きていて、よかった。
「生きている」=「死んでいない」ことに感謝を表しているので、事故や病気などの後で、元気になった場合などに使えます。ただ、この文が急に出てくると、「
だれが生きていることがうれしいのか」が少しあいまいです。それで、ある単語を加えてみましょう。
生きていてくれて、よかった。
「くれて」を入れると、自分ではなく
別の人が生きていることがうれしいというのがはっきりわかります。 「くれる」は自分の行動に対しては使いませんから。
自分が危ない場面を切り抜けて、自分の「生」に感謝する場合は、「生きていて、よかった。」だけでいいでしょう。場面や文脈からわかれば、「私」は必要ありません。また、自分がすごく感動したり、幸せを感じたりした時にもこの文は使えます。
今日は12月8日。信じられませんが、今年も間もなく終わります。みなさん、この一年はどうでしたか。自分の「生」に感謝して、「生きていて、よかった。」と思うことがたくさんありましたか。そんな人には幸せな年だったのでしょうね。
さらに、一年の終りに、大切な人に「生きていてくれて、よかった。」「一緒にいてくれて、よかった。」「あなたがあなたでいてくれて、よかった。」と感謝の気持ちを伝えられたら、すてきですね。