2013年2月17日日曜日

そう、らしい、よう、みたい

*English translation

暦(こよみ)の上ではもう春ですが、2月はまだまだ寒いですね。東京も毎日空気が冷たいです。ちなみに、「暦(こよみ)の上では」というのは「カレンダーでは」という意味で、天気のことを話す際に、よく使われます。

前に「そう、らしい、よう、みたい」の説明をしてくださいというリクエストをもらっていたので、今日はこれらについて書きます。私の授業でも時々聞かれる質問です。

まず、この4つの単語を「聞くこと」と「見ること」に分けましょう。「そう①」と「らしい」は「聞くこと」、「そう②」と「よう」と「みたい」は「見ること」になります。

では、「聞くこと―そう①、らしい」から。この2つの違いは「そう」は聞いた情報が確かな場合「らしい」は聞いた情報が不確かな場合と考えましょう。
天気予報を見た後で、その情報を友だちに教える場合:明日は雨が降るそうだよ。(教科書でもよくある例文ですね。) 
うわさを友だちに教える場合:田中さんは会社をやめるらしいよ。 

うわさ程度のことをだれかに伝える場合は「らしい」を使うと覚えれば、この2つの使い分けはそんなに難しくないですね。

次に、「見ること―そう②、よう、みたい」ですが、「よう」と「みたい」は同じだと考えてもいいので、「そう 」と「よう/みたい」を比べてみましょう。
空を見ていて、だんだん雲が広がり、空が暗くなってきた場合:もうすぐ雨が降りそうだね。 (It is likely to rain.)
 これは空を見ながら、雨が降る可能性を推測しています。つまり、今の状態を見て、将来の可能性を考えているのです。次の文もある店の状態を見ながら、先の可能性を推測しています。
いつもお客さんが全然いないのに、営業している店を見ている場合:この店はつぶれそうだね。 (It is likely that this store will close down.)
 
これに対して、今見ていることから何かを判断して、今の様子を伝える時には「よう/みたい」を使います。 次の例は「つぶれそう」という可能性を話しているのではありません。
今、店員がお店の中や品物を片づけているのを見ている場合:この店はつぶれるようだね。(It seems that this store is closing down.)
 
もう一組、例文を比較してみましょう。
友だちが毎日たくさん勉強しているのを見ている場合:彼はテストに合格しそうだね。(He is likely to pass an exam.) (将来の可能性の推測) 
テストの後、友だちがとても喜んでいるのを見た場合:彼はテストに合格したみたいだね。 (It seems that he has passed an exam.) (今見ている状態から判断し、今の状態を結論づける
 
最後に、これらの単語を実際に日本人がどうやって使い分けているかを紹介します。このブログを書く前に、私はどんな説明がいいかを考えていました。その時に、歴史の本には「確かな情報や不確かな情報、そして、ある状態を見て判断したこと」がたくさん書いてあることに気が付きました。それで、いくつかの文をある歴史研究の本(*1)から引用します。「三菱(みつびし)」という日本の会社はみなさんも知っていますね?この会社の創始者・岩崎弥太郎(いわさき やたろう)の子ども時代の話をここで引用します。

弥太郎が生まれた岩崎家は高知県安芸市(こうちけん あきし)に現存します。わらぶき屋根の簡素な家で、地位は武士(ぶし/さむらい)の身分を失った元武士でした。(これは事実です。)
岩崎家の生活は苦しかったようだ。 (著者が上の状態から判断したことですね。)
 
弥太郎は昼夜の別なく、 激しく泣きわめく癇の強い赤ん坊で、母の美和も困り果てたらしい(これは事実かもしれませんが、人から人へうわさのように伝わったことでしょう。)
  
 岩崎家には小さい庭があって、 そこには庭石がふしぎな形で置かれています。(事実です。)
これは日本列島をかたどったものだそうだ。居ながらにして日本全土を俯瞰(ふかん)しようと、弥太郎が自らつくったという 
(実際にその庭石が残っていることから、日本の地図を作ったという事実は100%確かじゃなくても、ある程度確かだと考えてもいいかもしれませんね。「という」は「そうだ」と「らしい」の間と言えるかな。確かとも不確かとも言えます。)
私たちは弥太郎が成長して達成した偉業と、子ども時代、貧しさに負けず一生懸命勉強したことを知っているので、「やはり彼が若い時から日本全体を視野に入れて、成功することを夢見ていた」と信じたいのですね。だから、最後の文はうそか本当かわからなくても、今まで伝わってきていることなのです。


註)そう①:any short form+そう、そう②:ます形+そう
*1 『岩崎弥太郎と三菱四代』、河合敦、幻冬舎新書、2010年


この投稿には続きがあります。興味がある方は「かわいそう―"She looks pretty" doesn't exist in Japanese.」も読んでみてください。
 

23 件のコメント:

Lili さんのコメント...

そう、らしい、ようについて教えてくれてありがとうございました。とてもわかりやすい説明ですね。先生はすごい!又、私はみなこさんのブログへリンクすれば、自分のブログでこの記事をフランスに翻訳してもいいですか。フランス人の学生にとって、役に立つと思いますから。

Minako Okamoto さんのコメント...

Lili san, いつも読んでくれてありがとう。ぜひ、今回もフランス語に訳してみてください!
ところで、今日東京は雪と強風で本当に寒かったですよ。

Ben さんのコメント...

本当に分かりやすい説明です。ありがとうございます!

Minako Okamoto さんのコメント...

Ben san,
ありがとう。そう言ってもらえて、うれしいです。
何か質問があれば、ここで教えてくださいね。

Afi さんのコメント...

Hello,
thank you for your great explanation of japanese language topics!
Concerning the usage of らしい I have a question - in my textbook I found combinations like 子供らしい or 春らしい. It seems that this doesn't fit in the usage you explained. (In the textbook 春らしい was opposed to 春みたい). Is this another kind of usage of らしい?
ケルン(ドイツ)からよろしく。
アンドレアス

Minako Okamoto さんのコメント...

アンドレアスさん、ドイツからコメントありがとうございます。

そうですね、この投稿で「子どもらしい」や「春らしい」の「らしい」の使い方については書きませんでした。

「名詞+らしい」の意味は「トピックがその名詞の特徴を強く持っている」ということです。

例えば、今日(4月9日)東京の気温は22度で、暖かくて、青空で、きれいな花々が咲いています。
「春の特徴」がたくさんある日です。こんな場合に、「今日は春らしい日です。」と言います。

これに対して、「春みたい」は本当は2月の冬の日だけど、急に暖かくなった場合に使います。冬だけど、春の感じがあるという意味です。

それで、「子どもらしい」は子どもに対して使いますが、「子どもみたい」はchildishな大人に使います。

ただ、実際は多くの日本人がこの違いを気にしないで、使っています。「Xらしい」も「Xみたい」も「X-like」として使われることが多いです。

Afi さんのコメント...

丁寧な説明をありがとう

Unknown さんのコメント...

詳細な説明をありがとうございます。
そう➀とそう➁の接続し方を詳しく教えて頂けないでしょうか?

■そう➀:
V辞書形+そう
形容詞と名詞はどうでしょうか?

■そう➁:
Vは「Vます - ます + そう」だけですか?
形容詞と名詞はどうでしょうか?

よろしくお願いします。

Minako Okamoto さんのコメント...

Dung Kapi さん、
そう①は「聞いたこと」をそのままshort form/plain form に変えて、「そう」の前に置きます。形容詞でも名詞でも、過去形でも未来形でも同じルールです。

そう②は動詞と形容詞だけが使えます。い形容詞は「おいしい」が「おいしそう」(It looks delicious.) になります。な形容詞は「しずかな」が「しずかそう」(It looks quiet.) になります。

Unknown さんのコメント...

岡本さん
ご返事をありがとうございます。

>そう②は動詞と形容詞だけが使えます。
例えば:あるものを見いていますが遠いから何か分かりません。「猫」だと判断したら「猫だそうです」と言えませんか?

Minako Okamoto さんのコメント...

Dung Kapi さん、

質問)あるものを見ていますが遠いから何か分かりません。「猫」だと判断したら「猫だそうです」と言えませんか?

答え)「猫だそうです」は正しくありません。この「そう」の使い方は①になるので、意味は I heard it is a cat.
正しい答え:「あれは猫みたいです。」とか「あそこに猫がいるみたいです。」

Unknown さんのコメント...

Surfing the internet, and i found this blog
Thank you very much
It's easy to understand your explanation

インドネシアから宜しく :) :)

Minako Okamoto さんのコメント...

Arga san, お役に立てて、うれしいです。
インドネシアで日本語の勉強をしているのですね。がんばってください!

Unknown さんのコメント...

はじめてコメントさせていただきます。

「らしい」「みたいだ」「ようだ」の説明、大変勉強になりました。
外国の方に説明する機会があるので、ぜひ参考にさせていただきたいと思います。

ひとつお聞きしたいことがあるのですが、
「らしい」は「聞いた情報が不確かな場合」とのことですが、
「聞いた情報」以外にも使うことは可能でしょうか。

例えば、海外のレストランで食べた料理について、
「この◯◯ってレストランの料理、ほとんどがインスタントらしくて、全然おいしくなかった」とか、

家族について、母親が
「息子は今日学校で何か嫌なことがあったらしく、帰るなり部屋に閉じこもってしまった」とか、

これらの「らしい(らしく(て))」は「聞いた情報」ではないような気がするのですが、問題なく使えるでしょうか。
(使う場面としてはブログなどの「書きことば」の場面が中心になるような気がしますが)

自分自身の中で上手く整理できておりませんので、的外れな質問でしたら申し訳ありません。
もしよろしければご回答いただけないでしょうか。

よろしくお願いいたします。

Minako Okamoto さんのコメント...

田中さん、コメントありがとうございます。
この投稿では「伝聞のらしい」のみに触れて、「様態のらしい」には触れていません。
伝聞と様態の違いがわかれば、教える立場として、きちんと説明できると思います。

過去のコメントでも、外国人がその点について質問しているので、私の解答が書いてあります。参考にしてください。

Unknown さんのコメント...

はじめまして。
私も個人で日本語学習者向けのサイトを作っていまして、同じテーマを扱おうとしているところです。
この記事(英語版の方)へのリンクを貼らせていただいても良いでしょうか。

Minako Okamoto さんのコメント...

Nakayama さん、
ブログを読んでくださって、ありがとうございます。リンクを貼って頂いて、構いません。ただ、その際は出典を明らかにすることをお願い致します。
なかやまさんもフリーランスの日本語教師でいらっしゃいますか?

Unknown さんのコメント...

のは、ので、のに
どんな違いでしょうか?

Minako Okamoto さんのコメント...

神崎さん、ブログを読んでくださってありがとうございます。
「のは」「ので」「のに」はすべて意味はぜんぜん違います。英語にするなら、「ので=because」「のに=although, even though」「のは」はひと言で英語に訳すことはできません。
まずは、教科書や辞書でそれぞれの意味をチェックしてみてください。その後にもっと深く知りたいことがあれば、またここにメッセージを書いてください。
日本語の勉強、がんばってください!

トビ さんのコメント...

凄く分かり易いです。本当に有難う御座います。😊😊😊

Minako Okamoto さんのコメント...

トビさん、コメントありがとうございます。
最近また「そう」と「よう」について書いたので、これも読んでみてください。
http://nihongodaybyday.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

Unknown さんのコメント...

まなこせんせいの説明は本当に凄いです。複雑な文法はやさしい文字で解説するとは決して簡単ではありません。感心です。時間があったら、これからもこのブログを読むつもりです。
ありがとうございます。
僕、香港からです。

Minako Okamoto さんのコメント...

香港からコメントありがとうございます!最近ブログの投稿が少なくなってしまっているのですが、こういうコメントをもらったら、もっと書かなくちゃ!と思いますよ。日本語の勉強がんばってね!!

直訳できない "It's a beautiful day!"

 明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!! と言いながら、最近はブログの更新をなまけています。読んでくださる方、ありがとう。 2023年は世界に平和が訪れることを心から願います。歴史を振り返ると、人間は戦争を繰り返していますね。今までの人類の半分は戦争で死ん...