でも、みなさんもすでにご存知のとおり、日本語→(主に)英語の訳は必ずしもうまく行くとは限りませんね。私も生徒から翻訳ツールを使ったんだろうなと推測できる日本語の文章(ちょっと不自然)でメッセージをもらうことがあります。また、「教科書のこの文を翻訳ツールで訳そうとしたけど、うまくできなかった」と聞いたこともあります。以前に読んだ記事では、翻訳機能を開発している会社が「日本語は主語を省略するので、主語の無い文を訳すのは難しい」と言っていたことを覚えています。
そこで、今日は翻訳機能がうまく使えない日本語の文について検証してみます。
私の生徒が Google Translate がきちんと使えなかったと教えてくれたのは『みんなの日本語1』(*1)の21課でした。教科書の日本語の例文と Google Translate の英訳を以下に書きます。
- 私は課長に会社をやめると言いました。 I told the section chief to quit the company.
- 私は課長に車をもっていないと言いました。 I said that I didn't have a car in the section chief.
- 私は課長にもう資料をつくったと言いました。 I told the section chief that he made the material.
- 私は課長に休みがほしいと言いました。 I told the section chief that I want a break.
- 私は課長に釣りがすきだと言いました。 I told the section chief that he likes fishing.
この中で正しく翻訳されたのは4の文だけです!1と3と5の間違いの理由は承知のとおり、「私は会社をやめる」「私はもう資料をつくった」「私は釣りが好きだ」の「私」が省略されているからです。2の間違いは「課長に」の「に」が色々な意味になり得るからです。
確かに、「やめる」「つくった」「すきだ」の主語である「私」が省略されてしまうのは日本語の特徴で、翻訳の際に主語が推測しにくく、このような間違った訳は仕方ないでしょう。実際、 Google Translate も迷っているようです。「私」ではなく「わたし」と書くと正しい翻訳ができたり、似たような文で試すと時々正しい訳が出て来ることもあります:)いずれにしても、わかりにくいことは確かです。
では、もう少し複雑な文で試してみます。状況は下記の通りです。
Mary said, "I will wait." Tom was listening.この状況を日本語で表そうとすると3つの方法があります。 方法の分類は direct speech (repeating the words spoken) と indirect speech (reporting the words spoken) です。
- メアリはトムに私は待つと言った。 (direct speech)
- メアリはトムに待つと言った。 (direct speech, 「私は」が省略)
- メアリはトムに彼女は待つと言った。 (indirect speech)
Google Translate で訳すと次のようになります。
- Mary told Tom I would wait. → 微妙ですが、"I" はMary ではない話し手の「私」になりそう。
- Mary told Tom to wait. → 完全に正しくない。
- Mary told Tom she would wait. → この状況を正しく表している。
1の日本語の文の「私」はだれを指しているのか、とてもわかりにくいですね。この文の中に人は二人いるのか、三人いるのか?でも、実際の会話で「メアリはトムに私は待つって言ったんだよー。」などと言うことはあるでしょう。「私は待つ」の部分が direct speech でメアリが言ったことです。
それから、2のような文は(『みんなの日本語』の1の文も同様)、 Google Translate が正しく訳せない文です。英語の訳に合わせるなら、日本語は次のようになります。
Mary told Tom to wait. → メアリはトムに待つように言った。
I told the section chief to quit the company. → 私は課長に会社をやめるように言った。(私が社長じゃない限り、こんなことは有り得ないですね!)結局、翻訳ツールにたよらず、皆さんが自分で日本語を訳したり、または日本語の文の意味を考えたりする必要がまだまだあるということです。その際に大切なことは「文脈から状況を想像すること」です!会話の流れ、もしくは前に書いてある内容から、この場面にはだれがいる?何人いる?だれがその行為をした?だれに対してその行為をした?などを判断する必要があります。それができないと、主語を省略する日本語の文の理解がとても難しくなります。一文だけを翻訳しようとすると、うまくいかないことがあるという訳です。それが現在の翻訳ツールが越えられない壁で、状況を把握した人にしか訳せない内容なのです。
その点に気を付けて、翻訳ツールを役立てるといいと思います。それでも、将来、優秀なAIは主語が省略された会話にもついていけるようになるのでしょうね!
*1『みんなの日本語 初級Ⅰ 第2版』、スリーエーネットワーク、2013年
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